トラの現状と種の保存について


 トラはアジア大陸に住む食肉目ネコ科で最大の動物で、その体は黄色に黒の縞があるとても美しく、そして獰猛な非常に魅力的な動物です。
  地域により8亜種があります。

アムールトラ 生息地:中国東北部、ロシア沿海州の アムール川流域、朝鮮北部
特 徴:大きさは最大。
スマトラトラ 生息地:スマトラ島(インドネシア)
特 徴:現存するトラの中では最小。
ベンガルトラ 生息地:インド
特 徴:大型のトラ。
アモイトラ  生息地:中国華南地方          
特 徴:中型のトラ。 野生では絶滅した可能性
インドシナトラ 生息地:インドシナ半島         
特 徴:ベンガルトラより小さい。
ジャワトラ 生息地:ジャワ島(インドネシア) 1980年代に絶滅
バリトラ 生息地:バリ島(インドネシア) 1940年代に絶滅
カスピトラ 生息地:カスピ海沿岸1970年代に絶滅

 

アムールトラ(東京動物園協会)
アムールトラ(東京動物園協会)
スマトラトラ(東京動物園協会)
スマトラトラ(東京動物園協会)

 トラは20世紀初頭には10万頭いたと考えられていますが、今では3400〜5100頭(約4000頭前後)と推定されます。
 その生息域は100年間で9割以上、最近の10年で4割が失われ、生存の危機に瀕しています。
 減少の要因は、密猟(漢方薬、毛皮等)、生息地の減少(大規模開発、違法伐採等)等です。

トラの分布の変化

 1975年にワシントン条約によって絶滅の危機に瀕する動植物の取引が規制されるようになりましたが、1995年にはインドだけで115頭のベンガルトラが密猟されるなど、今も密猟はなくなっていません。
 日本は2000年4月に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」が改正され、トラを使用している医薬品の、国内での製造、販売が全面的に禁止されています。
 トラを脅かす密猟の問題は、トラが生息する国だけでは解決できない問題です。
生息地でトラを守るために世界的な組織や国、NGO、NPOなどがトラの保護区にいろいろな支援、対策を行っています。
 動物園等で飼育されているトラの個体は純粋な血統を守るため国際血統登録されています。
 トラの国際血統登録者はドイツのライプチヒ動物園のピーター・ミューラー氏です。毎年飼育園館に出生、移動、死亡等を問い合わせ、登録書を更新しています。

国際血統登録状況(頭数)

亜 種

野生生息数

世界
(2007年末)

飼育園数

日本
(2008年末)

飼育園数

アムールトラ

350〜400

464(203,261,0)

281

57(29,28,0)

24

スマトラトラ

411〜679

199(92,107,0)

115

7(3,4,0)

3

ベンガルトラ

2000

207(105,102,0)

41

アモイトラ

0?

40(27,13,0)

19

インドシナトラ

630

144(70,73,1)

44

( )内:オス,メス,不明頭数

 以上の5亜種が登録されています。また、今後、インドシナトラとされていたものが技術の進歩でDNA鑑定によりインドシナトラとマレートラの2亜種に分類される予定です。
 なお、日本にいるベンガルトラといわれている個体は血統登録されていません。(91頭,22園)登録されているベンガルトラはそのほとんどがインドの動物園で飼育されています。正確なことはわかりませんが、種の保存とか血統登録が始まるずっと以前に、トラのその魅力から世界に広く飼育されるようになり、交雑から鑑定、登録できるような状況ではなくなってしまったのではないかと思われます。
 アムールトラを見ますと国際血統登録番号1〜23の23頭が野生個体で1952年ころから10の動物園で飼育されたのが始まりで、今までに142頭の野生個体の子孫が約5000頭いて、2007年末現在で464頭が動物園で生活していることがわかります。

センイチの血統図
センイチの血統図

 国際血統登録は動物の戸籍(国際血統登録番号SB#、性別、生年月日、父親、母親、出生場所、出来事、その日付、愛称等)で、それを調べるとそのトラの血統図ができあがります。
 例えば、天王寺動物園のアムールトラの雄(センイチSB#4835)では以下のようになります。
 センイチから10代前のヨーロッパで飼育された野生個体(古いもので1954年)まで遡ることができます。

 なぜこのように血統がわかるようにしているかというと純粋な血統を守ることと遺伝的多様性を保つためです。遺伝的多様性とは新しい環境や乗り越えるべきことに適応できる進化的な可能性を維持することです。その種の遺伝的に血縁の近いものが繁殖を続けると、体に異常のあるものや体の弱い個体が出現するといわれています。(近交弱性)
 また、地域内(例えば日本)にいる個体群の中でどの個体が繁殖すれば一番遺伝的多様性を維持でき、また収容可能頭数にあった個体数を維持できるかも考えます。
 日本では社団法人日本動物園水族館協会(89動物園、77水族園加盟)が1998年から種保存委員会を設立し、絶滅の危機に瀕している動物種について、その種の担当園が個体登録や繁殖計画に基づいた調整を行っています。
 神戸市立王子動物園はトラを担当しています。調整が始まったころは、前述の血統登録されていないベンガルトラが主でしたが、種の保存事業を始めるにあたり、純粋種としてアムールトラに転換していくことを提案し、結果としてスマトラトラを加えた2種となりました。
 アムールトラは1990年で39頭、13園で飼育されていました。当時から血の濃い個体が多く、海外から新しい血統の個体を輸入する必要がありました。現在までに28頭が輸入され、飼育園館も24園まで増えています。
 今まで、繁殖した子の血が濃くならないように調整してきましたが、ISIS(International Speacies Information System 国際種情報システム)の群管理ソフトを使用することにより、前述の個体群の管理をしていこうとしています。
 絶滅に瀕しているのはトラだけでなく、その他多くの動植物が同様の窮地に立っています。
 みなさんも絶滅に瀕している動植物を守るため、地球環境を守るためには何をすればいいか、そして自分にできることは何かを考え、小さなことでも実行していただければうれしいです。

(しまたに よしひこ)